今さら聞けない「検品レス」~普及しないワケと導入の条件

物流業界向け

検品レスという言葉は、およそ10年ほど前から聞かれるようになりました。しかし「具体的にどのように取り組めばよいかわからない」という物流関係者様はまだ多く、これには、サプライチェーン関係各社の“全体効率化への理解”がないと導入が進められない、という背景が関係しています。この記事では検品レスの基礎知識と、知っておきたい検品レス導入の条件について解説します。

そもそも「検品レス」とは

検品レスは、誤解のないよう表現し直すと「入荷検品レス」です。出荷側と入荷側の双方で行っている検品のうち、入荷側の検品を省略または簡略化することを指します。入荷側は検品しない、すなわち「出荷精度の絶対信用」が、検品レス実現の条件となります。

検品レスが登場した背景

例えばチェーンストア物流では、メーカー倉庫→卸業者の物流センター→小売店舗といった、いくつかの物流ポイントを中継しながらモノが流通していきます。検品業務にフォーカスすると、各物流ポイントの出荷側と入荷側それぞれで検品を行うのが主流です。自社の物流センターを持つ大型小売業者を除けば、ほとんどが事業者を跨ぐ流通なので、どうしても自社の入り口と出口でしっかり検品する必要があるのです。

ここで問題になりやすいのが入荷側の検品です。出荷時は輸送積載効率を考慮した積み付けが行われ、商品を搬入用ユニット(パレット、オリコンやラックなど)に混載することも少なくありません。入荷側はバーコード検品するためにそれらの仕分け・積み替え作業を行わなければならず、付随するように、入荷パースでの滞留や配送車輌の待機も発生します。このような背景から、サプライチェーンマネジメントによる検品業務の合理化が長らく求められてきました。

検品レスとはどんな運用?

検品によって発生する様々な物流の不合理を解消するため生まれたのが、「検品レス」という考え方です。具体的取り組みとして、パレットやオリコンなどの搬入ユニット単位で入荷検品を完了させる、一切の物理検品を行わずに入荷を完了させる、といったものがあります。これを可能にするのは、梱包明細情報を持ったASN(事前出荷通知)データと、ASNデータに紐づけられたSCMラベルです。例えば卸業者がメーカーに商品発注してパレット単位で検品を行う場合、以下のような運用が想定されます。

≪パレット単位で行う検品レス運用の例≫

1.メーカーは卸からの注文情報を基に、倉庫に出荷指示を出す
2.倉庫はピッキング・梱包・パレタイズし、外装に識別バーコード付きのSCMラベルを貼付する
3.倉庫は識別情報+積み付け商品情報をメーカーに提供する
4.メーカーは識別情報+出荷商品情報(=ASNデータ)を卸に提供する
5.卸はASNデータを基に識別バーコードを検品し、商品が正しく入荷されたと見なして入荷確定する

入荷側によるASNデータの確定処理が、出荷側にとっての納品完了合図です。納品伝票のやり取りが不要になるため、伝票運用を省いた「伝票レス運用」とも呼ばれます。

検品レスの目的は、サプライチェーン全体の合理化

検品レスを導入すると、入荷側では従来のような「納品書と現品の照合」「積み付けをバラしながら、荷物外装のGTINバーコードを一つ一つ読み取る」といった作業の手間が省かれます。入荷の高速化は納品トラックの接車時間短縮にも繋がり、中継する物流ポイントが多いほどサプライチェーン全体の効率化が図れる施策と言えるでしょう。

一方で、出荷側では一括検品のためのSCMラベル発行やASNデータの準備といった、新たなプロセスが発生します。入荷側が検品を省けるよう、ASNデータには賞味期限やロット情報を設け、出荷品質は当然に高水準でなければなりません。全体最適とのトレードオフとも言えるこの出荷側への要求の高さが、検品レス普及が進まない1つの要因となっています。

検品レス導入の条件とは

検品レスの直接的恩恵を受けられる入荷側は、できることなら検品レスを導入したいと願うでしょう。そうでなくともサプライチェーンマネジメントによる物流の全体最適化は、市場成長の中で今後更に求められていくものと思われます。求められたときにどのような準備・環境整備が必要なのか、検品レス導入の条件をまとめました。

ASNデータを用意できる環境

検品レスの生命線は、ASNデータです。出荷側はASNデータを準備するために、

  • 受注の締め切りを従来から半日ほど繰り上げる
  • 人員を確保する
  • 検品システムを導入する

などの対応が必要になります。また、ASNデータは、入荷側の検品入力を省略できるほど信用性高くなければなりません。そこで抑えておきたいのが、物流の最上流に位置するメーカーからの情報伝達です。例えばメーカー出荷時に品番、製造番号や賞味期限等の情報がソースマーキングされていれば、手入力によるエラーリスクがなくなります。メーカーからASNデータを受領できなくとも、出荷時にASNデータの品質を担保する上では非常に有効な手段です。

物流センターのシステム環境

出荷指示を受けた物流センターは、自社の情報システムからピッキングリストを出力し、荷揃え検品を行います。出荷品質への信用の上に成り立つ検品レス運用では、出荷現場でのピッキングや仕分けミスが極力防がれていることが大前提です。そのための高度な検品システムは必須と言えるでしょう。

サプライチェーン全体で一括検品による効率化を進める場合、搬入ユニット情報(パレットなど)とそれに紐づく出荷検品情報の管理、SCMラベルなどのハンドリング用バーコードを出力する仕組みが必要になります。これらの情報は荷揃え完了後、「出荷予定情報」としてメーカーなどの出荷指示元に提供することになるため、出荷指示元とデータ連携する仕組みも不可欠です。

事業者間のEDI環境

情報システムは事業者ごとに異なりますが、ASNデータは統一されたデータフォーマットで送受信しなければなりません。このように標準化された通信規格を用いてデータをやり取りする方法は、企業間EDI(電子データ交換)と呼ばれます。特に流通業においては送受信するデータフォーマットの統一が進んでおり、業界特化型のEDI規則として利用が広まっているのが「流通BMS(ビジネスメッセージ標準)」です。サプライチェーン全体で流通BMSを導入できれば、ASNデータだけでなく、発注から請求に至るまで無駄のないシームレスな事業者間データ連携が実現されます。

事業者間の信頼構築

検品レス運用は出荷への信用が前提なので、事業者同士の信用・信頼がなければ運用に踏み切ることすらできません。また“全体最適”を目指す施策でもあるため、立場の違いによるメリット・デメリットに囚われず、物流プロセス全体を自らの課題と捉える共通意識が必要です。事業者間で十分な信頼関係が構築されていることは、付け加えておくべき必須条件と言えるでしょう。

さいごに

検品レス運用は、そのサプライチェーンに関わる事業者同士が協力し、共同で物流課題に取り組むための施策であることがお分かり頂けたかと思います。これは、長時間労働や人手不足といった諸問題に対し、事業者が単独で立ち向かうには限界がきている証とも受け取れます。出荷側となる物流倉庫にとっては、ご紹介したような仕組みの整備がこれからの物流ニーズへの呼応に繋がるのは間違いありません。本コラムが事業者様の課題解消、あるいはビジネスチャンス拡大への一助となることができたら幸いです。

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