簿記知識が無くても知っておきたい、原価計算の基本

業界共通

「原価管理をシステム化したい」「原価計算の精度を上げたい」このようなご相談は頻繁に寄せられます。原価計算の手法は多岐にわたるため、財務会計目的か管理会計目的か、重視するのは正確性か速報性か、など自社の狙いに沿った原価計算の仕組みづくりが肝要です。そのための基礎知識として、この記事では主要な原価計算とそれぞれの違いを解説します。簿記知識なしでも何となく理解できる内容となっていますので、原価管理のシステム化準備としてぜひご一読ください。

全部原価計算と部分原価計算

〇〇原価計算と名の付くものは数多くありますが、計算構造で大きく区別すると、全部原価計算部分原価計算に分けることができます。原価の対象を掛かったコスト全部とするか一部とするか、という話で、一部というのは直接コストである変動費で使われることが多いことから、ここでは部分原価計算=「直接原価計算」としてご説明します。

全部原価計算と直接原価計算の違い

全部原価計算と直接原価計算の大きな違いは、営業利益の算出過程をみるとよくわかります。

全部原価計算で営業利益を算出する場合
営業利益 = 売上高 ー 売上原価 ー 販売費および一般管理費

直接原価計算で営業利益を算出する場合
営業利益 = 売上高 ー 変動費 ー 固定費

上記のとおり、全部原価計算と直接原価計算では費用の分類ルールが異なっています。原価計算は、その利用目的に応じて使い分ける必要があるのです。

全部原価計算とは

損益計算書でおなじみの計算方法で、売上原価と販管費に含まれる費用すべてを原価対象とするので「全部原価計算」と呼ばれます。全部原価計算はやり方によってさらに細分化され、費用集計に実績値を使うか標準値を使うか、集計は製品・製造単位で行うか一定期間単位で行うかで、計算プロセスが異なります。

実際原価計算と標準原価計算

製造~販売にあたって実際に発生したコストを集計するのが、実際原価計算です。原価の精度・妥当性が高く、原価管理をシステム化する際は大抵この計算方法の導入を検討されるかと思います。実際コストで計算するので、請求書の到着を月末まで待たなければならなかったり、費用の按分賦課を都度行う必要があったりと、原価集計に時間と手間がかかることはご承知のとおりです。スピード感ある事業改善を目的とする管理会計で取り入れる場合、実用性を上げる工夫がないと運用がなかなか続かないのが難点といえるでしょう。

これに対し、実際値ではなく標準値を使って原価算出するのが、標準原価計算です。予め決めた標準原価を数量に掛けるだけなので、製造や販売のタイミングで原価や損益状況をすぐに把握できます。とはいえ、あくまで理想でしかない標準原価だけで改善に繋がる原価管理は行えません。この計算方法の正しい使い方は、標準原価を“原価目標”とした、実際原価との差異分析です。このため、標準原価の精度を高める努力(実際原価をもとにした定期的な見直しなど)が必要になります。

個別原価計算と総合原価計算

原価計算方法は、実際値/標準値の区別とは別に、費用を集計する単位でも区別されます。

商品単位(製造指示単位)でコスト集計を行うのが、個別原価計算です。同じ製造ラインで仕様の異なる商品を次々製造していくような、受注生産型の製造業で採用されています。原材料費や人件費、設備の電力代に至るまで、製造に係るコストを商品単位で集計・算出するため、やたらと労力のかかる作業であるのは間違いありません。システムがないと原価がどんぶり勘定になってしまうのは、ある意味必然と言ってよいでしょう。

一方、同じ製造ラインで同じ商品を繰り返し製造するような生産形態で行われているのが、総合原価計算です。毎日大量生産する商品をいちいち指示書単位で計算するのは不合理なので、基本的には月単位で発生した費用を集計し、原価計算します。

なお実際の原価計算では、個別原価/総合原価と、実際原価/標準原価の区分要素を組み合わせて、「実際個別原価計算」や「標準個別原価計算」という形で使用されます。

直接原価計算とは

売上原価と販管費のすべてを原価として集計する全部原価計算に対し、直接原価である「変動費」だけを原価とみなす計算方式を「直接原価計算」といいます。直接原価計算で作成された損益計算書には、費用が売上原価/販管費ではなく変動費/固定費として分類されるので、全部原価計算法と比べると違いは明らかです。

固定費と変動費

直接原価計算法では費用を変動費と固定費に分類し(固変分解と呼ばれます)、コスト集計を行います。説明するまでもありませんが、念のために整理すると、変動費は生産量や売上に比例して増えたり減ったりするコスト、固定費は生産量や売上に関係なく一律で発生するコストです。

≪主な変動費≫
原材料費、製造を外部委託した際の外注費用、臨時で雇ったパート社員の人件費など

≪主な固定費≫
家賃、水道光熱費、通信料、正社員の人件費、工場設備の減価償却費やリース料など

コストの中には正社員の残業代など、変動費と固定費のどちらに割り振るか迷うようなものもあります。なので一般的には、固変分解は勘定科目法というルールに則って行われています。

限界利益と損益分岐点

直接原価計算では、変動費のみを原価として捉えます。変動費は、言い換えれば「商品の製造・売上に直接関与した費用」です。ある商品の変動費が1000円で、それを2000円で販売できたとすると、その商品は作って(または仕入れて)売れさえすれば、必ず1000円の利益を残せる、ということになります。変動費と固定費を分けて考えることで、家賃などの固定費要素を度外視した、商品自体の収益性を見ることができるのです。

売上高から変動費を差し引いた金額は限界利益といい、限界利益率を求めることで損益分岐点が算出できるようになります。これを利用すれば、例えばリース料や減価償却費などの固定費割合が大きく固定費で赤字化してしまっているような製造会社が、生産・販売に注力すべき(収益性の高い)商品を見極めて黒字化を図る、といった事業改善ができるわけです。直接原価計算は、管理会計においてこそ有用な原価計算方法であることがお分かりいただけたかと思います。

製造業における原価計算

製造業では工業簿記のルールに従い、製造原価を算出しなければなりません。決算時に製造原価報告書を作成するほか、製造原価は最終的に売上原価勘定に振り替えられることになるので、財務会計上でも重要な原価計算となります。

費目別/部門別/製品別原価計算

工業簿記で製品原価計算を行う場合、一般的には以下の3ステップで行われます。

  1. 費目別原価計算
  2. 部門別原価計算
  3. 製品別原価計算

概要をザックリと説明すると、原価計算期間(通常1ヵ月)において、まず製造にかかったすべての費用を費目別に集計し()、そのうち材料や人件費などの直接的費用を除いた間接的製造費の配賦金額を算出し()、すべての直接的/間接的費用を製品別に集計して製品原価とします()。財務会計では、実際に勘定仕訳・振り替えを行いながら製造原価計算が進んでいきます。

なお製造原価計算は全部原価計算法にあたるので、実際原価で行うパターンと標準原価で行うパターンがあります。素早い経営判断が求められる管理会計においては1か月の原価計算期間は長すぎるので、生産管理システムを導入して材料費は実際原価で集計し、一部は標準原価を交えながら速やかな原価算出を行う、といったハイブリッド原価計算が行われることもあります。

製造原価の構成要素(材料費/労務費/経費)

製造原価計算の1ステップ目に行う費目別計算とは、「材料費・労務費・経費」という製造原価を構成する3大費目別にコストを集計する行為です。2ステップ目で直接製造費と間接製造費の区分が必要になるので、実際には費目と直接費/間接費の要素を組み合わせた以下の費目別にコスト集計を行います。

製造直接費:直接材料費/直接労務費/直接経費
製造間接費:間接材料費/間接労務費/間接経費

1つ前でご紹介した直接原価計算において、変動費(商品の製造・売上に直接関与する費用)を原価として捉えると申し上げましたが、製造業では製造直接費とほぼ同義と思っていただいて問題ないかと思います。(とはいえ直接費/間接費の変動性/固定性は企業によって異なりますので、一概には言えないことも付け加えておきます。)

また製造業で標準原価計算を取り入れる場合は、費目それぞれに標準値(コスト目標値)を決め、費目別に実際コストとの差異分析を行うのが一般的です。

さいごに

「原価計算」は管理会計でも取り扱う以上、会計知識の有無に関わらずその構造や目的は理解しておきたいところです。ほとんどの方がお気づきのように、原価計算は突き詰めれば手間もコストもかかります。原価管理をシステム化する前に、自社が原価管理を行うことによって何を達成しようとしているのか、それを紐解く鍵として、ぜひ本記事をご参考にしていただければと思います。

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