食肉業界で生産管理システム導入がうまくいかない理由と、2つの選択肢

食肉業界向け

「生産現場の管理業務をシステム化したい」中小規模の食肉加工卸業者さまからも、生産管理システム導入のご相談をいただくことがあります。しかしお話を進めるなかで「やっぱり難しいかも」と途中で挫折してしまったり、なかには過去に導入したけど稼働できなかったというパターンも存在します。この記事では、食肉業界において生産管理システム導入がなぜ高いハードルなのか、理由を探るとともに、知っておきたい生産管理システムと加工管理システムの違いについて解説します。

なぜ生産管理システム導入は挫折するのか

あくまで弊社の経験の範囲にはなりますが、食肉業界において生産管理システムの導入プロジェクトは、“超”がつくほどの挫折しがち案件です。生産現場の管理をどうシステム化すればよいのか、自社がとるべき道を探る前に、まずはその実態を知っていただきたいと思います。

弊社が見聞きした挫折パターン

弊社は食肉卸向けの業務パッケージを開発する立場上、これまで数多くの食肉事業者さまにお会いしてきました。生産管理のシステム化は、自社工場を持つ事業者さまからは必ずといっていいほど相談されます。聞けば過去に生産管理を導入して失敗していたり、実際に弊社と検討を進めるなかで途中で諦めてしまうケースもあります。パターンをまとめると、おおよそ以下のような感じでしょう。

  • 検討すればするほど現場運用に負荷が掛かりそうで、やっぱり導入をやめた
  • ベンダーとの仕様打ち合わせが纏まり切らず、プロジェクトがまったく進まない
  • 本稼働までこぎ着けたが運用がハードすぎて現場がついていけず、結局一部のプロセスでアナログ作業が残った(大金かけて導入した意味は…)

なぜ挫折するのか

食肉・食品工場では、工業製品のような部品組み立て系の製造工場では見られない製造プロセスも多く存在します。例えば、「原料指示の際に、実際に使用する原体の重量や個体番号を把握する」「カット加工の際に出た端切れを再配合して、ミンチなどの別製品をつくる」などです。これらをシステムで管理しようとしたときの手数の多さやパターンの多さに、運用現場の実情がついていけません。

生産ライン・工程がいくつもあるような調理加工を行っている場合はもっと大変になります。ライン別の生産指示や実績データ収集、商品ラベル表示を行うためには、レシピや工程を管理する膨大な量のマスタ整備が必要です。食品加工は新商品の開発サイクルが早いため、マスタ整備にかかる労力がネックになることは珍しくありません。原料投入や歩留計算の単位、工程情報の定義など生産プロセスが事業者ごとに異なるからこそシステム導入時に決めるべき事柄は多く、落としどころが見つからずにプロジェクトが頓挫するというわけです。

挫折しないためには目的を見失わないこと

生産管理をシステム化したい、この要望が意図することのほとんどは「指示や実績把握を含んだ管理業務の効率化」「製造原価管理の強化」であろうと思います。弊社としてもこの目的に異論はなく、これらの課題解決にシステム導入が有効なのは間違いありません。大切なのは、生産管理で本当に(厳密にいえば優先的に)達成したいことは何なのか、です。

管理業務の効率化と一口にいっても、例えばラベル出しや仕様書作成を省力化するためのレシピ管理か、生産ラインに指示を出すためのレシピ管理かで、システムの選択肢は変わってきます。製造原価管理を強化するにしても、ラインの人件費まで厳密に原価配賦したいのか、単品ごとの歩留率がわかれば良しとするのか、事業者によって優先すべきことや絵空事なしの実現可能性はマチマチというものです。

だからこそシステム化の目的をしっかりと定めたうえで、システム探しを行っていただきたいのです。以降では、食肉加工現場で使用されるシステムを用途別に大きく2種類に分け、解説しています。生産管理システムと名の付くものを闇雲にあたって目的を見失う前に、ぜひ一度参考にしていただければと思います。

加工管理システムと生産管理システム

食肉加工を行っている事業者さまから「製造現場もシステム化したい」と相談されたとき、弊社はまず2種類の選択肢(システム)を思い浮かべます。食肉カット工場向けの加工管理システムと、プロセスセンター向けの生産管理システムです。事業者さまの具体的な加工業務内容をヒアリングし、どちらを土台にシステム構築するとよりスムーズに運用できそうなのか見極め、その方針について打ち合わせさせていただく流れをとっています。

ただし、システムというのは作ろうと思えば如何様にも作れるものなので、例えば加工管理システムの中に生産管理システムのエッセンスを取り入れるといったことも可能です。「加工管理システム」 と 「生産管理システム」という切り口で解説させていただいてはいますが、あくまでベースの枠組みとしての話であることは頭に入れておいていただければと思います。

カット加工向けの「加工管理システム」

納品先である飲食店やセントラルキッチンが調理しやすいよう、ブロック肉をトリミングしたり、スライスやサイコロ状などにカット加工するタイプの工場には、「加工管理システム」が向いています。小回りがきいた対応を強みとする中小の食肉卸業者にご提案することが多いシステムです。

具体的な機能

▪ 加工指示データ作成(受注生産商品の場合は受注データをもとに、見込み生産商品の場合は加工指示入力を行う)
▪ 指示書、ラベル発行(加工指示書、出庫/出荷指示書、商品ラベルまたは管理ラベル)
▪ 実績管理(出来高登録、計量器・ラベラー・自動包装値付け機連動、歩留管理)
▪ ハンディターミナルによる原料/製品/半製品の入出庫処理

在庫管理機能とデータ連携させることで、原料や製品在庫がリアルタイムで捉えられます。調理加工を行う事業者に導入する場合は、仕様書作成や原料換算を目的にレシピ管理機能を設けるケースもありますが、この場合、レシピ機能と加工指示/実績管理機能との繋がりはありません。

このシステムでできること・できないこと

≪できること≫
▪ 加工指示を手書きしていたり、ラベル発行を手動で行っている場合は自動化できる
▪ 原料投入のタイミングで原料バーコードを、製品出来上がりのタイミングで商品バーコードをハンディスキャンすることで、原料/出来高の実績データ収集と歩留計算が可能(単品/製造ロット単位)
▪ 計量器や自動値付け機などに指示データを送ることで、出来高管理を手間なく行えるようになる

≪できないこと≫
▪ 1つの製品を作るのに製造工程が複数ある場合には向かない(“工程”という概念がないので、工程ごとの出来高管理が行えない)
▪ 複数原料から1つの製品を作る場合には向かない(調味料系などは使用量の指示くらいは行えるが、原料実績や歩留管理はバーコードスキャンだと難しい)
梱包資材や人件費などの間接費まで管理できないため、実績や原価計算は製造日報などで別途管理する必要がある

プロセスセンター向けの「生産管理システム」

ここでいう「生産管理システム」とは、工場内に製造ラインがいくつもあり、1つの製品をつくるのに製造ラインを跨ぐ(工程が複数ある)製造形態向けのシステムをイメージして頂くとよいです。大規模なプロセスセンターだけでなく、工程や使用原料の多いハム・ソーセージ製造を行う事業者にも当てはまります。

具体的な機能

▪ 生産計画(計画に基づき所要量を計算し、原料発注への連動や工程別の作業指示へ連動する)
▪ 所要量計算(原料換算や歩留管理を行う)
▪ 製造指示(工程指示書や製造指示書の発行が可能となる)
▪ 工程進捗管理(工程指示No.ごとに作業進捗の問い合わせが可能となる)
▪ 実績管理(出来高登録や付帯経費登録により、製品製造原価の算出が可能となる)
▪ その他(計量器や自動包装値付け機などとの連動)

このシステムでできること・できないこと

≪できること≫
▪ 店舗からの発注データの集約、および、出荷製品の店別仕分指示(出荷連動)

▪ 当日製造する製品の製造指示、および、製品別の所要量計算に基づく原料/調味料/資材の投入指示(これに伴う在庫管理まで含む)
▪ 工程別の作業進捗管理
▪ 製品の歩留算出を含む、製造原価管理

≪できないこと≫
ない

加工管理システムにできて、生産管理システムにできないことは何一つありません。加工管理システムというのは、生産管理システムの一部機能を切り出したシステム、いわば「簡易生産管理システム」だからです。

ただし生産管理システムを導入したら生産管理がすべてシステマタイズされるというのは理屈上の話で、例えば仕掛品の実績処理を現場が継続してやれるのか、工程やレシピマスタを継続して整備できるのかなど、運用面の課題は残ります。机上の理想論でシステムは成り立ちませんから、加工管理システム(をベースとした生産管理システム)にダウングレードして継続運用する道も、弊社ではあわせてご提案するようにしています。

さいごに

近ごろはノンカスタマイズ(パッケージを自社仕様に修正をかけずにそのまま使う)でのシステム導入を希望される事業者さまも多くいらっしゃいますが、加工は事業者の個性を出す業務領域であるからこそ、パッケージをそのまま使おうとはあまり考えないほうが良いです。加工卸にとっては加工業務こそが事業の生命線のはずで、何を妥協する代わりに何を達成するのかは、それぞれの事情にあわせてしっかりと設計されるべきなのです。弊社ではご相談から承っておりますので、お困りのことがあればお気軽にご相談頂ければと思います。

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