輸入食品の原価計算を効率的に行う方法【実例付き】

食肉業界向け

「輸入食品の原価計算を標準化したい」「商品別の原価と粗利の精度を上げたい」輸入卸では輸入に掛かったコストを基に商品の原価計算を行う必要があります。食品業界においては検疫で商品が一度留め置かれたり、諸経費計上に時間を要するなど、入荷ごとに商品原価を捉えるのに時間がかかり悩んでいる経営者様は多いです。この記事では、そんな輸入食品の原価計算の精度・効率を上げ継続運用していく方法を、実例を交え解説します。

原価計算がうまくいかないと感じる理由

輸入食品の仕入原価は為替に大きく左右されるため、予定利益を算出し販売価格を決定する必要があります。だからこそ原価の速報性が求められるわけですが、正確性とのバランスが難しく、納得度の高い原価計算ができている事業者はそう多くありません。ひとえに為替計算輸入諸経費の按分がネックになっていることが多く、輸入食品の原価計算が国内仕入の原価計算と大きく違う点でもあります。

為替計算

基幹システムで購買管理を行う際、輸入品についても円建て運用するケースがほとんどかと思います。この場合、外貨→円に換算したうえでシステム登録することになりますが、仕入担当者任せでレート換算を行う運用にはリスクが伴います。人的作業による計算ミスの恐れがあるほか、都合のいいレートを使うことで原価そのものの信憑性が下がることも考えられます。

輸入経費の按分計算

輸入品一品ごとの原価を求めるには、関税などの輸入税と、運賃や保険料など輸入全体にかかる諸経費をそれぞれ商品価格に配賦し、算出する流れが一般的です。人の手で行うには骨が折れるだけでなく、計算ミスや精度ムラを引き起こす一つの要因でもあります。また、これらの経費計算は乙仲や保険会社等から送られてくる請求書類を基に行われますが、書類入手に半月以上かかるケースもザラです。為替レートをみながら通関を切る(分割通関)ようなケースでは、原価計算が事後となり粗利を把握するのが販売から数か月後、というようなこともあります。

原価計算は、正確性か速報性か

食肉等の輸入仕入では大金が動きやすく、キャッシュフローの側面から見ても「その輸入にいくらかかるのか」は重要な情報です。概算でもいいから輸入にかかるコストを早く教えてくれ、というのが輸入卸を営む経営者の本音でしょう。営業現場にとっても、為替レートによっては利益を確保するために販売価格の調整が必要になるため、ここでも原価の速報性が求められてきます。

しかしスピードを重視するあまり、まったく当てにならないような原価計算では意味がありません。輸入品の原価計算では、正確性と速報性を折衷させた、“ちょうどいい落としどころ”を見つけなければならないのです。

輸入品原価計算の4つの要素

輸入品の原価計算の落としどころを見つけ尚且つ効率的に行うために、まずは原価を構成する要素を整理してみます。原価の中身は、大きく分けると商品代金商品輸入にかかった経費です。商品価格はインボイス情報(単価と数量/重量)と為替レートが確定した時点で算出できますが、諸経費は通関後しばらく経ってからでないと正確な金額がわからないのが特徴です。

商品代金

インボイスやパッキングリストに記載されている商品自体の価格です。インボイスを受領した段階で、商品価格はおおよそ確定することができます。“おおよそ”と申し上げたのは、為替の輸入予約を行っている場合を除いては、インボイス受領後に(商品代金を支払った時点の)為替レートの影響を受けるからです。商品代金の受け渡しには互いの国内取引銀行を介するT/T送金が使われることが多いので、円建て送金する場合は、その時の為替レートに銀行側の為替手数料が加味されたレートで支払いが行われることになります。

商品輸入にかかる経費① – 関税・消費税

税関への輸入申告が終わって通関が切れたら、その証として輸入許可通知書が発行され、この時点で輸入にかかった税金額(関税・消費税/地方消費税)が確定します。ここで説明するまでもないですが、輸入品の原価計算では関税率ごとに税金額を商品代金に上乗せする作業が必要なので、許可書の入手は早いに越したことはありません。従来型のFAXや電子メールでのやり取りではどうしてもタイムラグが生じるため、税関や乙仲業者が使用する「NACCS(ナックス)」と呼ばれる専用システムと自社の基幹システムを連携させ、リアルタイムで輸入管理する事業者も増えてきているようです。

商品輸入にかかる経費② – 輸入諸経費

輸入諸経費とは、船/飛行機の輸送料、保税倉庫などへの一時保管料、通関料などの輸入諸掛、保険料や送金手数料といったものです。輸入税が商品単位でかかるコストとするなら、これらの経費は輸入全体にかかるコストと言えます。輸入品の原価計算の精度を上げるには、この諸経費の按分と配賦がカギであるのは間違いありません。いかに按分計算の妥当性を上げ、必要なタイミングで商品代金に配賦できるかをしっかり検討する必要があります。

これらの経費情報は、乙仲や保険会社などから送られてくるアライバルノーティスや請求明細に記載されており、五月雨式に経費が確定していくのが特徴です。1回の輸入に対し、すべての経費情報が揃うのに一般的に2~3週間、分割通関などを行うとさらに数か月を要することもあります。精度とスピードを使い分け、いい落としどころを掴むことが大切です。

その他の経費

輸入には直接関与していないものの、港湾や空港から輸入貨物を引き取る際の国内輸送料、輸送先の倉庫に支払う保管/荷役料なども、あわせて商品一品ごとの原価として捉えるケースがあります。このあたりのルールが曖昧だと、特に担当者ごとに原価計算を行っているような場合は、原価の妥当性にムラが出ていることが考えられます。情報システムで吸収するにしろ、ある程度のルール化は必要になるでしょう。

【実例付き】輸入品の原価計算方法

ご説明したように輸入品の原価計算では、関税を関税率ごとに配賦したり、全体経費を適正配分したりと、インボイス・通関日・商品単位で考えていかなければなりません。情報システムがなければ、効率化は難しいのが現状です。そこで情報システムを用いて具体的にどのような原価計算を行えばよいのか、弊社の導入事例を交えながら、3ステップでご紹介いたします。ぜひシステム更改時のご参考にされてください。

ステップ①商品原価計算

インボイスやパッキングリストを受領した段階でシステムに入荷予定情報として登録し、商品原価をいったん確定させます。外貨表記は見たまま入力を行い、為替計算を自動化して人の手による計算行為を排除するのが望ましいでしょう。後に登録する経費情報を商品代金に配賦できるように、輸入番号(輸入取引の通し番号)を採番して入荷予定情報と紐づけておきます。

【実例】
・インボイス入手前、発注の段階で仮入力できる仕様とすることで業務合理性を高めた
・為替自動計算には予め為替マスタで設定した社内標準レートを使用。計算プロセスの標準化と原価の速報性を高めた

ステップ②輸入経費計算

経費入力メニューを設け、確定した経費情報をシステム登録していきます。ここでも前述した輸入番号(輸入取引の通し番号)と紐づけておくことで、あとでその輸入明細に対し、経費を自動配賦できるようになります。なお自動配賦するには、関税率の指定や、諸経費の按分基準を予め定めておかなければなりません。

【実例】
・過去実績値などを基にした経費の仮登録を行うことで、経費確定前の概算原価算出を可能とした
・諸経費の按分には、費目性質ごとに数量・重量比率/金額比率/同一比率のいずれかを事前設定しておき、費用按分の精度を高めた

ステップ③仕入原価計算

輸入番号をキーにシステムに登録された諸経費を集約し、関税率や按分基準に応じてそれらの経費を各商品代金に自動配賦します。インボイスに記載された輸入商品ごとに原価が捉えられるようになるのが、この段階です。なお原価計算機能と、計算結果を販売済み商品の粗利計算に反映させる機能を分けることで、仮の粗利を捉えながら、確定経費をもとにした原価の再計算を行うことができるようになります。

【実例】
・単価上乗せ設定機能を設けることで、国内輸送や保管にかかるコストも任意で原価対象にできるようにした
・まずは概算費用で原価と粗利を把握し、経費確定後に原価/粗利を再計算することで、原価管理のスピードと精度の両立が実現された

さいごに

輸入仕入の原価計算は、販売価格の決定や輸入取引ごとの利益管理といったように、管理会計において大きな意味を持っています。原価管理をシステム化するにしても、「継続運用可能な仕組み」でなければなりません。だからこそ正確性と速報性のいい落としどころを見つけることを、弊社ではご提案しています。貴社における原価管理の改善に、本コラムをお役立ていただければ幸いです。

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