ここ数年の運賃適正化への動きは、運送業界の大きな関心事です。最近は特に「標準的運賃」「トラック適正化二法」「適正原価」などのワードを耳にする機会が増えましたが、その内容についてよく知らない担当者様もいらっしゃるかと思います。また、法改正の概要は知っていても、どの原価管理を改善していけば良いのか具体的イメージが持てない担当者様も多くいらっしゃいます。この記事では、法改正の動きの概要と、具体的取り組みのヒントとなるような「原価管理システムの検討ポイント」を解説します。
目次
適正運賃に関する法改正の動き
法改正の動きで最も気になるのは、「結局なにをすると法令違反になるのか」という点です。そこでまずは、適正運賃に関する法令トレンドワードとも言える「標準的運賃」「トラック適正化二法」「適正原価」について解説します。
2020年に初告示→2024年に見直された「標準的運賃」
2020年4月、「貨物自動車運送事業法」の”附則”に「標準的な運賃」に関する記述が追加され、その運賃表(※ただし対象は時間制/距離制のチャーター輸送のみ)が公開されました。
国土交通大臣は、当分の間、(中略)一般貨物自動車運送事業の能率的な経営の下における適正な原価及び適正な利潤を基準として、標準的な運賃を定めることができる。
– 貨物自動車運送事業法 附則(標準的な運賃) 抜粋
尚、この運賃表は、2024年3月に見直し(全体平均で8%程度引上げ)がなされています。運送業界を長年苦しめる不当な価格競争や多重下請構造から脱却するのが目的でしたが、運送会社が自社の適正運賃を算出するための参考指標の位置づけでしかなく、法的拘束力がないのが「標準的運賃」のポイントです。
2025年公布の「トラック適正化二法」
2025年6月、いわゆる「トラック適正化二法」が公布されました。二法というのは、
■「貨物自動車運送事業法の一部を改正する法律
■貨物自動車運送事業の適正化のための体制の整備等の推進に関する法律
を指します。詳細は本記事の主旨から外れるためここでは省きますが、トラック適正化二法の主な改正内容の1つに『国土交通大臣が定める「適正原価」を下回る運賃・料金の制限』というものがあります。そしてその施行日は “公布後3年以内”、つまり2028年6月頃までを目途に法的効力を持つスケジュールとされています。※ちなみに他の法改正の一部(白トラ規制強化など)は、2026年4月1日より施行済み
法的拘束力を持つ「適正原価」
『国土交通大臣が定める「適正原価」を下回る運賃・料金の制限』が、法的効力を持つということは、「国が定めた適正運賃より低い価格で仕事を受けたら、法律違反でペナルティ(行政指導や罰金など)を課すよ」ということです。法的拘束力を持たない標準的運賃を廃止し、強制力のある適正原価に法律移行するイメージになると思われます。
ただ「適正原価がどれくらいの価格水準で設定されるのか」について、現時点で確定した情報はありません。現在、国交省は「標準的運賃の浸透・活用状況等に関する調査実施に係る協力依頼について」という業界向けのアンケート調査を実施しており、その結果を踏まえて適正原価を策定すると予想されます。このため、現時点では明確に「この価格を下回る運賃で引き受けると法令違反」というものはなく、動向を注視する必要があります。
標準的運賃の考え方から、自社の原価管理の仕組みを整える
国交省が2024年に標準的運賃を見直した際に、『「標準的な運賃」の見直しについて』という資料が公開されました。資料内では車輌原価の設定方法が解説されており、これを読み解くことが自社の原価管理の仕組みを整えるヒントになります。
求められる原価管理の仕組み整備
「適正原価」は、運送取引の最低料金を法的に定めるものです。とはいえ、運賃設定の理屈が「原価がこれだけかかっているから」であることに変わりはありません。今後(国が指定した適正原価を割らないように)運賃見直しをするにしても、自社の車輌原価をそれなりに把握し、荷主に値上げ根拠を説明できなければならないのです。適正原価の法改正対応にあたり、運送会社側は原価管理の仕組みの整備から求められていると言えます。
「標準的運賃」における車輌原価の構成要素
上述した国交省資料では、車輌原価を「人件費」「車輌費」「その他費用」「間接費」「運行費」に要素分けし、それぞれ実勢調査をもとに算出した金額が用いられています。(これに「適正利潤」を上載せしたものが「標準的運賃」)
余談ですが、標準的運賃の設定に際しては、運送にかかる付帯料金(待機時間料、積込料・取卸料、附帯作業費、高速道路/フェリー利用料などの実費についても同様に価格指標が定められています。
原価管理システム検討のポイント
今後原価管理を見直す際には、上述した「人件費」「車輌費」「その他費用」「間接費」「運行費」という国交省の原価計算の考え方を流用できます。今回は、これらの原価要素別に、原価管理システムを検討する場合のポイントを具体的に解説しましょう。
人件費の管理方法
車輌人件費なので、ドライバーの基本給や手当が該当します。ここについては、どこまで厳密に捉えたいかにより、システム構築と運用の難易度が変わります。
そもそも給与はドライバーごとに異なるので、正しい人件費を出したければ給与ソフトのデータを使うのが一番です。ただ、持ち車制ならそれでも良いかもしれませんが、そうでない場合は人件費を按分しドライバーの実績車輌に割り当てなければなりません。またこのやり方では、翌月の給与確定まで待たなければ人件費が出せない、ということになります。このため別のやり方として、車番や車種ごとに標準人件費を設けてマスタ管理する方法もよく取られます。(=車輌原価の人件費は標準値を使用)
手当・残業代など変動する人件費は、運行実績画面(日報入力など)で入力するのが妥当です。ここでは手当マスタや残業代自動計算などの機能でどう手入力を無くすか、の検討になります。
車輌費・その他費用(保険料や税金)の管理方法
「車輌費」は減価償却費やリース料、「その他費用」は各種保険料や税金(取得税や自動車税)などがあたります。概ね車輌ごとに異なる費用であることから、車輌別にマスタ管理するのが一般的です。
また車検や修繕費も車輌費の一部と言えます。上記が固定費的な性質を持つのに対し、点検や修繕費は変動型費用なので、発生したタイミングで入力を行うイメージです。システム化する際は「車輌整備入力」などがこれにあたります。
運行費の管理方法
運行することで発生した費用なので、燃料費や高速・フェリー料金などがこれにあたります。このため手当や残業代などの変動型人件費と同様に、運送実績画面(日報入力など)で入力するのが妥当です。ここでも入力負荷をどう下げるかの検討を行います。下記は、燃料費の入力負荷軽減の例です。
■デジタコ連携で取り込んだ走行距離から、既定の燃料単価を掛けて自動算出
■デジタコ連携で取り込んだ給油実績に、既定の単価を掛けて自動算出
原価を日次レベルで捉える場合、給油実績を使うと一日あたりの使用量を按分算出する必要があります。原価管理をどこまで厳密に行いたいかにより、システム構築と運用の難易度が変わるのは、人件費と同様です。
間接費の管理方法
建物費用や水道光熱費、ドライバー以外の人件費などの所謂「販売費および一般管理費」にあたるものです。これを実際金額を使って各車輌に割り振るのはあらゆる面で現実的でないため、一般的には固定経費のような形でマスタ管理し、標準金額を車輌に割り当てます。ここでは標準金額の妥当性が問題になるため、最初は1カ月の実際の販管費を集計して算出し、定期的に見直しをかけるといった運用の工夫が必要になります。
まとめ
適正運賃をめぐる法改正は、運送会社に「自社の原価を正しく把握し、説明できる体制づくり」を強く求めています。標準的運賃から適正原価へと法的拘束力が高まる中、人件費・車輌費・運行費・間接費といった原価要素を日常的に管理できる仕組みの整備は避けて通れません。どこまで精緻に原価を捉えるかでシステム要件は変わりますが、まずは国交省の原価構成の考え方を参考に、自社の実態に合った原価管理の仕組みを整えることが、今後の適正運賃対応の第一歩となります。















