自動発注の基本知識と運用の実態|発注点の決め方も解説

物流業界向け

「自動発注システムは本当に使えるのか」人手を削って発注業務の完全な自動化を目指す事業者さまの中には、実態がよくわからないために導入を躊躇する担当者さまもいらっしゃいます。本記事では、導入を検討する際に知っておきたい自動発注の基礎知識と、導入企業の運用の実態について解説します。

自動発注システムに使われる発注方式

自動発注とは、どのタイミングでどれくらいの量を発注するかをコンピュータで決めることです。自動発注システムの導入時には、発注計算のルールについて念入りに打ち合わせが行われます。そのための基礎知識として、まずは自動発注で使われる主要な発注方式3つを解説します。

セルワン・バイワン発注方式

売れた分だけを発注する、文字通り“1個売ったら、1個買う(補充する)”発注方式です。実際には「売れた量が100を超えたら」など販売数の基準点を商品毎に設け販売数の累計が基準点を超えたタイミングで自動発注がかかる仕組みになります。比較的簡単なやり方と言われていますが、侮ってはいけません。販売数の基準点をどこに置くかは非常に悩ましい問題で、

  • 基準点を大きな数(100など)にした場合
    …物流作業効率はいいが、途中で売れ行きが落ちると不良在庫化する
  • 基準点を小さな数(5など)にした場合
    …在庫コントロールは容易になるが、入荷や格納の作業量が増えて労働生産性が落ちる

と、ジレンマと隣り合わせであることがわかります。基準点を商品毎に最適化できるかが運用成功のカギで、そのためには正確な売上予測と定期的な見直しが必要です。一定の需要がある定番商品以外では、上手く運用できないことのほうが多い印象があります。

補充点発注方式

「在庫が50を下回ったら」など在庫残量の基準点を商品毎に設け帳簿在庫数量をもとに自動発注がかかる仕組みです。帳簿在庫が狂っていると意味がなく、在庫管理システムで在庫の精度やリアルタイム性が確保されていることが、導入の条件となります。

補充点方式がセルワン・バイワン式と大きく異なるのは、「最低限必要な在庫量庫内に保管する最大の在庫量を調整することで、発注頻度=荷役作業量を下げられる」という点でしょう。

最低限必要な在庫や最大在庫は、販売予測に裏付けされている必要がありますが、これらの在庫量を各商品ごとにどう算出すべきかはケースバイケースです。移動平均法などの一般的な需要予測モデルを使ったり、受注量を使った計算ロジックを組み、発注量やタイミングを調整することで需要変動に対応することもあります。ロジックの精度・妥当性が自動発注の精度を左右するため、時間をかけてでもしっかり検討しなければなりません。

需要予測型発注方式

高度な需要予測エンジン(システム)を使って、発注のタイミングと量を需要予測に応じて自動で見極め、発注する仕組みです。補充点方式では予め決めておいた在庫残量の基準点をもとに発注量の計算を行いますが、例えば需要が急上昇すると補充が追い付かずに販売ロスを招くリスクがあるなど、実務上の課題がありました。

そこで登場したのが需要予測型です。需要予測エンジンが弾き出した予測結果に応じ、発注の基準点や発注数量をシステムで自動調整します。

需要の予測方法については、膨大なビッグデータを使った統計的な需要予測であることもありますが、最近はAI技術を使ってエンジン自らが需要分析するような高度なソリューションも増えてきました。顧客情報や販売情報、天候情報など多様なデータを持つPOSシステムと相性がよく、特にチェーン小売などでは積極的に導入が進められています。

発注計算で考えなければならない3つのこと

自動発注システムを導入する際は、発注する量やタイミングを自動で判断するために、発注計算ルールをベンダーと打ち合わせすることになります。次は、上記の発注方式とあわせて知っておきたい発注計算のための基礎知識を、3つのポイントに分けて解説します。

安全在庫の量は?

販売量・需要予測に基づいたものではなく、在庫の余力として常に確保しておくのが安全在庫です。これにより急な需要増や補充漏れ、納品遅れなどにも対応することができ、機会損失のリスクを減らせます。とはいえ持ちすぎるのもよくありません。闇雲に大量の在庫を抱えると、需要の少ない商品在庫が長く滞留してキャッシュフローが悪化してしまいます。安全在庫量の算出は、以下の計算式を使用して客観的に決めることが多いです。

安全在庫=安全係数×使用量の標準偏差×√(発注リードタイム+発注間隔)

小難しいのでざっくり説明すると、「欠品を防ぎたい度合い、一日の在庫消費量のふり幅、発注納期の3つを考慮して安全在庫を算出するよ」という内容です。人が感覚で設定するより、客観性と精度が高くなります。

発注点をどこに置くか

発注点とは、在庫の補充発注が必要だと判断するタイミングのこと。最も一般的な「残在庫が〇〇個を下回ったら」という判断基準を設けた場合、以下の計算式で発注点を算出することができます。

発注点=1日の販売(出荷)数量×発注リードタイム +安全在庫

納期が3日で、1日平均100個出荷する商品なら、「300個(+安全在庫)を切った段階で発注する」という極めて単純なロジックです。普遍的なセオリーではありますが、万能というわけでもありません。残在庫だけではなく発注残を考慮したほうがよい場合もあれば、“在庫量がこの範囲にあるとき”のような、もっと柔軟な発注点を持たせた方がよい場合もあります。自社の事情に合わせて検討する必要があり、システムベンダーなど一緒に考えてくれる専門家がいると心強いでしょう。

発注量をどう決めるか

在庫が発注点を切ったタイミングで毎回同じ量を発注する方式は、定量発注型と呼ばれます。発注量は自分で設定を変えない限り、一定です。欠品や余剰在庫を生まないためには、過去の販売データ分析を行って、精度の高い標準発注量を見い出さなければなりません。

一度発注量を決めてしまえば、発注時に需要予測する必要がなくなるので発注業務の時短に繋がりメリットなのですが、季節性などで需要変化がある商品は都度発注量の見直しが必要になります。(この点、需要予測型システムを採用すれば、需要に応じて発注量を自動調整してくれるので便利。)

なお定量発注型と異なり、毎月1日や毎週月曜など発注のタイミングを固定化し、発注量を変化させるやり方を定期発注型と呼びます。定期発注型では、以下の計算式を使うことで発注を自動化することができます。

発注量 = (調達期間 + 発注サイクル期間) × 需要推定量 + 安全在庫 - 発注時の在庫量

自動発注の実態とリスク

自動発注の理屈はわかったけど、本当にそれで問題は発生しないのか。ここからは、知っておきたい自動発注システム運用の実態とリスクについてご紹介します。

計算ロジックが甘いと結局人手がかかる

繰り返しますが、万能な発注計算ロジックというものはなく、自社に合ったかたちで計算ロジックを構築しなければなりません。導入前の打ち合わせやベンダー側の理解が不十分だと、検討不足や考慮不足で計算ロジックが甘くなります。こうなると、システムが算出した発注内容ではダメだということに気づいた担当者が、結局一つ一つチェックして発注数を手作業で調整することになります。

これを回避するには、導入前に計算ロジックを根気強く、納得のいくまで検討すること、そしてそれを一緒にやってくれる信頼できるベンダー選びが大切です。

「自動」だと思って何も考えなくなる

「自動化」を謳うことで人が無条件に機械を頼るようになり、スタッフの考える力が低下することは、自動発注の現場でも問題視されています。

そもそも自動発注システムでは、完全なAI需要予測型でない限り、人が何もしないというのはありえません。欠品の許容範囲を判断したり、需要変化に合わせて発注計算ロジック(パラメーターと呼ばれます)を適宜調整したり、最後に自動計算結果の正しさを判断するのも、結局人です。考える作業はなくならず、自動化したからといって社員育成を怠ってはならないことを、私たちは先人の事例から学ぶ必要があります。

需要予測を十分にできない

高度な需要予測システムを導入したつもりが、実用的な需要予測ができずに結局検品や余剰在庫が発生する、といったケースもあります。慣れた発注担当者というのは、店舗や市場、社会のわずかな変化を機敏に感じ取りながら、見えないところで発注をコントロールしているものです。「経験と勘」は悪のように言われますが、人の感覚的判断がロジックに勝ることもあります。

需要予測技術が成熟するのを待つ以外にできるのは、自動化する場面・しない場面を見極めながら、上手に付き合っていくことではないかと弊社は考えています。

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さいごに

人手不足に悩む物流業界において、発注を自動化し、そのぶんの人員を他業務に回すことができるのは大きなメリットです。このため多くの事業者が、自動発注システムの導入を検討しています。しかしご紹介したように準備や認識が不十分な状態で導入すると、余計に手間がかかるケースもあります。信頼できるベンダーと導入前にしっかり検討を行ったうえで、自動発注システムの導入を成功させていただければと思います。

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